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東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2476号 決定

当事者 別紙当事者目録に記載のとおり

主文

1  相手方らは、

(1)  本件土地内に搬入した土砂を撤去せよ。

(2)  本件土地上に建築した別紙建物目録記載の建物を収去せよ。

(3)  本決定送達後一四日以内に本件土地から退去せよ。

(4)  買受人が代金を納付するまでの間、本件土地につき、土砂その他一切の物を搬入し、建物その他一切の工作物を建築・設置し、又は占有を他人に移転し、もしくは占有名義を変更してはならない。

2  買受人が代金を納付するまでの間、執行官は、本件土地につき、相手方らが土砂その他一切の物の搬入、建物その他一切の工作物の建築・設置、及び占有の移転又は占有名義の変更を禁止されていることを公示しなければならない。

理由

本決定は、売却のための保全処分(民事執行法五五条一項)を認めるものである。

1  申立の内容等

(1)  当事者の地位等

申立人は、本件土地についての抵当権者であり(平成元年六月七日付けで登記されている)、その実行としての競売を平成四年七月一六日に申し立てた差押債権者である。競売開始決定及び差押登記は翌一七日付けでなされた。

相手方渡久建設株式会社は、競売事件の債務者兼所有者である。

相手方光和総業株式会社を権利者として、本件土地について賃借権設定仮登記が平成四年七月一六日付けでなされ(譲渡、転貸ができるとの特約あり)、さらにそれが相手方ユナイテッド株式会社に譲渡された旨の賃借権移転仮登記が平成四年八月一一日付けでなされている。

相手方和光リバティホーム株式会社は、不動産業等を目的とする会社である。

(以上の事実は、記録中の資料によって明らかである。)

(2)  申立の内容

申立人は、相手方らが本件土地内に土砂を搬入し、本件土地上に別紙建物目録記載の建物(以下「本件仮設建物」という。)を建築したと主張し、そのために本件土地の価格は著しく減少したとして、主文に記載のとおりの決定を求めた。

2  当裁判所が申立を認めた理由

当裁判所は、本件申立を認めるべきものと判断した。その理由は次のとおりである。

(1)  「不動産の価格を著しく減少する行為」の存在について

申立人の提出した資料及び渡久建設に対する審尋の結果によれば、以下のアからウまでの事実が一応認められる。この事実と、第1項(1)(当事者の地位等)の事実とを総合すれば、相手方らは執行妨害を目的として、本件土地に土砂を搬入し、本件仮設建物を建築し、本件土地を占有しているものであり、このような行為は、「不動産の価格を著しく減少する行為」(民事執行法五五条一項)に当たるものと判断できる。

ア  株式会社長谷工コーポレーションは、本件土地を駐車場として利用する目的で、一時使用のため、平成二年九月一日から平成四年八月三一日まで賃借・使用していた。

イ  渡久建設は小切手の不渡を免れるため、平成四年六月一五日、福山孝喜から一〇〇〇万円を借り受けたが、その際、福山の要求により、土地賃貸借契約書、賃借権設定証書(いずれも賃借人、目的不動産、賃料その他の事項は白地)、連帯借用証書(借用額、貸主等は白地)、公正証書作成嘱託の委任状、登記の委任状(いずれも重要事項は白地)等に捺印した。(前記賃借権設定仮登記は、これらの書類を利用して行われたものと思われる。)

ウ  差押後の平成四年八月一九日、和光リバティホームは長谷工コーポレーションに対し、光和総業から本件土地を転借したと主張して、その明渡を請求した。同日夜には、光和総業の看板が囲い塀に掲げられ、出入口の施錠箇所の鉄鎖が破壊されていた。同月二一日には、土砂の搬入と本件仮設建物の建築が開始された。同月二四日には、囲い塀の一部を破壊してトラックの侵入路が作られ、現地にいた者らが長谷工コーポレーションの従業員に対して、本件仮設建物の設営地域内に立ち入ることを禁止した。また現場には監視者がいて、現場を視察に行ったある債権者のカメラのフィルムを抜くなどしたことがある。なお、本件仮設建物は同月二七日にまでに完成した。

(2)  執行官に対して、相手方が土砂その他一切の物の搬入、建物その他一切の工作物の建築・設置、及び占有の移転又は占有名義の変更を禁止されていることを公示するよう命じた点について

当裁判所は、このような公示を命じることは適法で、かつ必要なものと認める。その理由は次のとおりである。

民事保全法上の仮処分については、不作為を命じる仮処分とともにその公示を執行官に命じることは、法的には必要がなく、必要のないことを命じることは許されないと解されるのが通常であろう。

つまり、民事保全法上の仮処分において、公示を命じることは通常は許されないと解されているが、それは、法的には必要のないことだからにすぎない。逆にいえば、法的な必要性が認められれば、公示を命じることも許されるのである。

本件は、民事保全法上の仮処分ではなくて、民事執行法上の保全処分である。民事執行法上の売却のための保全処分においては、第三者に対してこれを発令することができるのは、法律の認める特定の場合に限られる。したがって、競売物件の所有者に対する保全処分がなされた後に第三者がこれを占有するなどに至った場合、その第三者が保全処分の存在を知っていたか否かは、その第三者に対して保全処分を命じることができるか否かの判断においてきわめて重要な意味を有することになる。よって、公示を命じる法的な必要性を認めるべきである。

(裁判官村上正敏)

別紙当事者目録

申立人 株式会社住友銀行

代表者代表取締役 峯岡弘

申立人代理人弁護士 須藤英章

同 岸和正

相手方 渡久建設株式会社

代表者代表取締役 保科栄一

相手方 光和総業株式会社

代表者代表取締役 高橋幸彦

相手方 ユナイテッド株式会社

代表者代表取締役 平井隆久

相手方 和光リバティーホーム株式会社

代表者代表取締役 管原敏彦

別紙物件目録

所在 東京都荒川区荒川八丁目

地番 二四番の一

地目 宅地

地積 九、一〇七、九五平方メートル

別紙建物目録

(1) 東京都荒川区荒川八丁目二四番の一所在

一。プレハブ造一階建仮設建物(未登記)

床面積 約48.6平方メートル

(2) 東京都荒川区荒川八丁目二四番の一所在

一。プレハブ造一階建仮設建物(未登記)

床面積 約24.3平方メートル

《参考決定》

平成四年(ヲ)第八四号代替執行費用支払命令申立事件

基本事件平成四年(ヲ)第二四七六号

当事者 別紙当事者目録のとおり

上記当事者間の東京地方裁判所平成四年(ヲ)第二四七六号売却のための保全処分申立事件の執行力のある決定正本に基づく債権者の申立てがあったので、次のとおり決定する。

主文

一 債務者和光リバティーホーム株式会社は、別紙建物目録記載の建物の収去費用として、金四八万六八五〇円をあらかじめ債権者に支払わなければならない。

二 債務者らは、連帯して別紙土砂目録記載の土砂の撤去費用として、金一億六二三八万九三六一円をあらかじめ債権者に支払わなければならない。

理由

一 売却のための保全処分

平成四年九月一六日、東京地方裁判所平成四年(ヲ)第二四七六号売却のための保全処分申立事件において、売却のための保全処分の決定があったが、その決定には、次の命令が記載されている。

(1) 債務者らは、本件土地(別紙物件目録及び土砂目録記載の土地)内に搬入した土砂を撤去せよ。

(2) 債務者らは、本件土地上に建築した別紙建物目録記載の建物を収去せよ。

二 建物の所有関係

上記一(2)の建物は、債務者和光リバティーホーム株式会社のみの所有と認められる。

三 和光リバティーホームの主張について

債務者和光リバティーホーム株式会社は、(1)競売事件の債務者や所有者でない和光リバティホーム株式会社は、売却のための保全処分の相手方とならない、(2)和光リバティーホーム株式会社は、占有補助者ではない、(3)和光リバティーホーム株式会社の行為は不動産の価格を著しく減少する行為には当たらないと主張する。

この主張は、本件費用前払い命令の基礎となる債務名義である売却のための保全処分の違法を主張するものであるが、本命令は、その基礎となる上記の債務名義に現に執行力が存在することを根拠としてされるものであるから、上記の主張は、本命令を発令する妨げにはならない。

しかし、その主張について、一言すれば、(1)債務者や所有者でなくても、執行妨害の目的で、債務者または所有者の関与のもとに、競売不動産の価格を著しく減少する行為をする者は、占有補助者として、売却のための保全処分の相手方となるものと解するべきである。

そして、基本事件である売却のための保全処分申立事件の記録によれば、(2)和光リバティーホーム株式会社は、他の債務者らとともに、渡久建設株式会社から取得した際には内容白地(土地の使用目的など契約内容は、債務者光和総業株式会社などが勝手に記載したものである)であった契約書面などを利用して、本件土地の賃借権または転借権を取得したかのような外形をつくり、本件土地を正当に借り受け、隣地で行う高層ビルの建築工事のため自動車や資材を置く必要から本件土地(もと工場の敷地であり、その相当部分は舗装されていたもので、残土の捨て場として利用されたことはない)を占有していた長谷工コーポレーションを暴力的に追い出して、その不動産を侵奪し(不動産侵奪罪が成立する可能性がある)、さらに本件土地に残土などの土砂を搬入し、裁判所の売却前の保全処分を無視して、本件土地への土砂の搬入を続けたものであり、執行妨害の目的で所有者の関与のもとに、上記の行為をしたものと認められるから、占有補助者に当たるものである。

そして(3)競売不動産である本件土地の売却について、上記の行為が、買受けを躊躇させる要素となり、買受け希望者を減少させることはいうまでもないから、上記の債務者の行為は、不動産の価格を著しく減少する行為に当り、これを排除しなければ競売の公正を保つことができないことも明らかである。(その意味で上記の行為は競売入札妨害罪を構成する可能性がある)。

四 光和総業の主張について

債務者光和総業株式会社は、本件土地に土砂を搬入する行為は、債務者和光リバティーホーム株式会社がしたもので、光和総業株式会社は、土砂を撤去する義務を負わないと主張する。

この主張は、本件費用前払い命令の基礎となる債務名義である売却のための保全処分の違法を主張するものであるが、本命令は、その基礎となる上記の債務名義に現に執行力が存在することを根拠としてされるものであるから、上記の主張は、前記の主張と同様、本命令を発令する妨げにはならない。

しかし、その主張について、一言すれば、上記の基本事件の記録によれば、光和総業株式会社は、渡久建設株式会社から取得した際には内容白地であった契約書面などを利用して、本件土地の賃借権を取得したかのような外形をつくり、賃借権設定仮登記を経由し(公正証書原本不実記載罪が成立する可能性がある)、本件土地を正当に借り受け、隣地で行う高層ビルの建築工事のため自動車や資材を置く必要から本件土地を占有していた長谷工コーポレーションを暴力的に追い出して、その不動産を侵奪し(不動産侵奪罪が成立する可能性がある)、みずからまたは和光リバティーホーム株式会社をして本件土地に土砂を搬入させたものと認められ、光和総業株式会社は、執行妨害の目的で所有者の関与のもとに、上記の行為をしたものであることはいうまでもない。

五 ユナイテッドの主張について

債務者ユナイテッド株式会社は、本件土地に土砂を搬入する行為は、債務者和光リバティーホーム株式会社がしたもので、ユナイテッド株式会社は、土砂を撤去する義務を負わないと主張する。

この主張は、本件費用前払い命令の基礎となる債務名義である売却のための保全処分の違法を主張するものであるが、本命令は、その基礎となる上記の債務名義に現に執行力が存在することを根拠としてされるものであるから、上記の主張は、前記の主張と同様、本命令を発令する妨げにはならない。

しかし、その主張について、一言すれば、上記の基本事件の記録によれば、ユナイテッド株式会社は、本件土地の賃借権が外形にすぎないことを承知しながら、これを担保に融資したかのような外形をつくり、賃借権設定仮登記の移転登記を経由し(公正証書原本不実記載罪が成立する可能性がある)、光和総業株式会社や和光リバティーホーム株式会社が、上記の執行妨害行為をすることにみずから加わり、またはこれを幇助したものと認められ、ユナイテッド株式会社は、執行妨害の目的で所有者の関与のもとに、上記の行為をしたものであることもいうまでもない。

六 建物の収去費用の概算額

記録によれば、別紙建物目録記載の建物を収去する費用として、少なく見積っても金四八万六八五〇円を要するものと認められる。したがって、債務者和光リバティーホーム株式会社は、この収去費用の概算額を債権者に支払うべき義務がある。

七 土砂の撤去費用の概算額

記録によれば、別紙土砂目録記載の土砂を収去する費用として、少なく見積っても金一億六二三八万九三六一円を要するものと認められる。したがって、債務者らは、連帯して、この収去費用の概算額を債権者に支払うべき義務がある。

なお、債務者らは、搬入した土砂の量を争っているが、記録中の見積書(信用度の高い建設会社の見積である)によれば、上記の土砂の量は、二万三五〇〇立方メートルであり、他に見積をした業者も二万立方メートルを超える土砂が存在するものと判定している。そこで、当裁判所としては、最低限二万立方メートルの土砂があるものと認め、これをもとに上記見積書の見積金額一億九〇八〇万七五〇〇円を修正した金一億六二三八万九三六一円をもって収去費用の概算額と算定した。

(裁判官淺生重機)

別紙当事者目録〈省略〉

別紙建物目録

一 (保全決定上の表示)

東京都荒川区荒川八丁目二四番の一所在

1 プレハブ造一階建仮設建物(未登記)

床面積 約48.6平方メートル

(登記薄上の表示)

所在 東京都荒川区荒川八丁目二四番地一

家屋番号 二四番一の一

種類 事務所

構造 軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建

床面積 49.68平方メートル

(上記建物は同一である)

二 (保全決定上の表示)

東京都荒川区荒川八丁目二四番の一の所在

1 プレハブ造一階建仮設建物(未登記)

床面積 約24.3平方メートル

(登記上の表示)

所在 東京都荒川区荒川八丁目二四番地一

家屋番号 二四番一の二

種類 事務所

構造 軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建

床面積 19.87平方メートル

(上記建物は同一である)

別紙物件目録

所在 東京都荒川区荒川八丁目

地番 二四番の一

地目 宅地

地積 9,107.95平方メートル

別紙土砂目録

東京都荒川区荒川八丁目二四番の一宅地9,107.95平方メートル内に搬入した土砂

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